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「なあんだ、まだ訴訟してるのか」
根津が箱根における化物話は、それからそれへと伝わった。本人も自慢らしく吹聴していたので、友達らは皆その話を知っていた。
半シャツの男は房一の前に来て、はじめてお辞儀らしい格好をした。
それは正文にかゝりつけの患家だつた。
「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。
「をかしな男だな」
「いや、そのうち又ゆつくり話さう」
房一は苦笑した。
川沿ひに細長く続いている河原町の通りは、地勢のせいでゆるい下り勾配をなしていた。所々で屋並みが切れて、そこには茶畑があつたり、空樽が乾してあつたりするかと思ふと、次の空地にはどこの家で使つているのか判らないやうな大きな井戸がその円く肥つた腹のやうな焼物の縁をたゞあつけらかんと日に照されていたりした。
「はい、あの、切れて居りますが」
関西訛なまりの特長のある呼び方で、彼はちよつと頭を下げた。それはお辞儀といふよりも、何か強談を持ちかけるといつた工合の、一種の身構への感じられる強きつい調子だつた。
房一は前の方を向いたまゝだつた。
「おつ!こりあいかん」